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短編小説『武蔵テレビの井戸端会議』 - 井戸端
2025/04/01 (二) 05:39:12
>短編小説『武蔵テレビの井戸端会議』
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>二子玉川にそびえる武蔵テレビの社員食堂は、ランチタイムになると多くの社員で賑わう。そこでは、ニュース番組を制作する報道局の女性社員たちが、今日もまた自然と集まり、噂話に花を咲かせていた。
>「ねえ、聞いた? 鳥松常務の件」 最初に口火を切ったのは、報道局の若手記者、綾瀬だ。
>「もちろん。まさかあの人があんなことしてたなんてね」 経済班のベテラン記者、佐伯がため息交じりに答える。
>「でもさ、なんか意外じゃなかった?」 社会部の川端が箸を止め、顔を上げる。「だって鳥松常務、普段はめちゃくちゃ厳しいけど、下心ある感じじゃなかったじゃん?」
>「そうなのよ。むしろあの人、仕事以外に興味ないタイプだと思ってた」 綾瀬も頷く。「でも、結局は私たちの思い込みだったってことかもね。上の人間の本当の姿なんて、下の立場じゃ分からないのかも」
>「しかし……今さら十年以上も前の話が出てくるのもどうなのかしらね」 佐伯が静かに言う。「証拠もないし、時効も成立してるし、結局は言ったもん勝ちじゃない?」
>「でも、社内の空気はもう鳥松常務が悪者って感じになってるよね」 川端がため息をつく。「牛川専務なんて、すっかり『知らなかった』って顔してるけど、絶対知ってたでしょ」
>「ねえ、それよりもさ……」 綾瀬が少し声を潜める。「鳥松常務に『休日の君の自撮り写メ送れ』って言われたあの人、最初は期待してたんじゃない?」
>「えっ?」 川端が目を丸くする。
>「いやだってさ、普通そんなこと言われたら『ええ? 彼氏とのデート中のラブラブ・ツーショットとかで良いんですか?』とか『飼い犬の写真で勘弁して』って笑って軽く流せばいい話じゃん。でも真面目に受け取って騒いでるってことは……」
>「全裸の自撮り動画を送れという意味だと勝手に思い込み、不倫セックスの御誘いの前振りだと あの人 思い込んで第三者委員会に垂れ込んだってこと?」 佐伯が少し呆れたように笑う。「『君の自撮り画像を送ってくれ』って言われて、全裸の自分に欲情した鳥松常務と不倫セックスする卑猥な妄想を膨らませて すっかり舞い上がっちゃってたのかしらね あの人」
>「根っからの真相報道オタクだから鳥松常務の方は。 男っ気のない彼女の休日の過ごし方が報道記者として気になって気になって仕方なかっただけのような気もするけど…」
>「1対1で食事やドライブまで行っておいて、最後まで何もなかったから、鳥松常務に対して彼女の欲求不満が爆発したってとこでしょ 事の真相は?」 綾瀬が冗談めかして言う。
>「それあり得る。だって、最初から『女友達も連れてっていいですか?』とか聞けば良かったじゃん。でも1対1でドライブに行ったってことは……」 川端が意味ありげに口元を覆う。
>「鳥松常務と不倫する気、満々だったんじゃない?」 佐伯がニヤリと笑う。
短編小説『武蔵テレビの井戸端会議』 - 井戸端
2025/04/01 (二) 05:48:34
>2
>「まあ、本人たちにしか分からないことだけどね。でも、これって結局、後になって都合よく『ハラスメントされた!』って言ってるだけじゃない?」 綾瀬がスプーンを回しながら言う。「牛川専務に手を握られたって垂れ込んだ あっちの人も もし本当に嫌なら、その場で『奥さんに言いつけちゃいますよ』とか、冗談めかして牽制すれば良かったんじゃない?」
>「だよねえ」 川端が頷く。「私だったら絶対そう言うわ」
>「でも、それをせずに黙ってたから、牛川専務は『ああ、この子はそういうのOKな子なんだな』って思ったんじゃない?」 佐伯が冷静に言う。「で、今になって『私は被害者です』って言われてもねえ」
>「そう考えると、報道の私たちがこんな話をしてるのも、ある意味どうなんだろうね」 綾瀬がぼそりと言う。「結局、私たちも裏取りなしの噂話をしてるだけってことなのかも」
>「でも、社食の井戸端会議って、そういうもんでしょ?」
>「ええ そう。 武蔵テレビの体質がどうのこうのって… そんな大袈裟な話じゃないよね どこの会社にも転がってそうな話だと思うけど…」 川端が苦笑する。
>佐伯が微笑む。「彼氏のいない女の欲求不満ってホント怖いねえ。 勝手に妄想膨らませた挙げ句 下心も無さそうな男の人を食い殺しちゃうんだもんねえ。 さて、午後の仕事に戻るとしますか」
>そう言いながらも、彼女たちは知っていた。社食でのこの会話もまた、次の日には誰かの耳に入り、新たな噂となって広がっていくのだということを──。